1.職人の技の継承
―職人の技の巧みさは、「かめ」の生活の中で培われていく。―

この現場で私は「家をつくる」ことの意味を深く考えさせられた。
「家をつくる」こと。
それは、住み手にとって「家族をつくる」ということでもあり、
設計者にとって「関係や間をつくる」ということでもある。
では職人にとって「家をつくること」は、どういうことのなのであろうか。
設計者と職人との大きな違いは何だろうか。
「岡町の家」を設計した建築家・竹原義二氏(無有建築工房所長)は、
この家の施主でもある。
氏は両者を「うさぎとかめ」にたとえる。
寝る間も惜しんで練り直し練り直しを繰り返しながら、
追われるように設計に携わる「うさぎ」。
一方太陽の動きに合わせるように仕事を始め、休憩は必ず取り、
日が沈むと仕事を終え、毎日を同じリズムで暮らす「かめ」。
「岡町の家」の現場に足を運び、そこで仕事をする大工棟梁の中谷禎次さんに
一日張り付いてみた。
…なるほど「かめ」である。
何十年と毎日毎日この仕事をしてきただけの体つき。
数年やそこらで鍛えようとしても無理であろう。
その腰には手入れされ、使い慣れた道具が収められている。
ちょんまげのように結った頭も印象的であった。
胸ポケットに入れた煙草を取り出し、くわえて火をつけ、
図面を見つめ作業に入る。
煙草の灰が落ちそうになっていても気にも留めない。真剣そのものである。
そして禎次さんの登場に気付いた他の職人さんたちが、彼のもとへ集まってくる。
そんな彼らを見ていて気が付いた。
彼らは位置を示す時も材料を選ぶ時も通り番号で指示をするのだ。
(※通り番号:図面上で柱や壁の位置を示すために方向ごとに番号を順につけたもの)
詳細図であろうと設備図面であろうと図面という図面がすべて頭に入っているかのように。
(※詳細図:材料や寸法の取り合いが細かく書かれた図面)
彼らの仕事は材料を切って組み立てるだけに終わらない。
当然の事だが仕事をする場所づくりから始まる。
足場を組み立て、照明や電気のコードを引っ張り、材料置き場をつくり、
作業台をつくり、道具すらその場であっという間に作り出してしまう。
手近な端材を手にとり寸法をとって切り、それを定規代わりにあてて
材の寸法を測る。
かと思えば、さっきまで定規代わりにしていた木切れをバキッと手で折って
材の下にかませ、即席の作業台をつくって、作業に入っていくのである。
材の寸法を取る手さばきは鮮やかである。現場にはいくつかの木切れが
転がっているのだが、その家の基本モジュールとなる寸法の一本の木切れが
定規の代わりとなって、それを元に他の寸法も切り出していく。
家をひとつつくるにはたくさんの材を切り出さなければならないが、この一本の重要な木切れによって
無駄の少ない割付を可能にし、間違いなく寸法をとることができる。
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