足場の不安定な屋根の上で、重たい瓦を持ち運びする瓦職人さんは、
気付かぬうちに力持ちになる。

「やたらと腕力がつくのだけが瓦屋の自慢ですわ」
と光本さんは言う。

ある時、施主さんにこう言われた。
「光本さん、あのドア、どうやって開けはったんですか?」
「どうやってって、普通にノブ回して開けただけです」
「あれ、開かずのトビラで、どんなに力入れても、テコでも動かなかったんです。
 ほんまに、どうやって開けはったんですか?」





瓦にとって大敵は手のあぶら。瓦につくとなかなかとれない。
特に、地面から見たときによく見える瓦の側面には絶対に油をつけてはならない。
瓦を持つときは、側面には触らないようにと訓練されるそうだ。
「瓦についた手のあぶらなんて、下から見て気にする人いるんですか?」
との質問には
「プロがみたらわかるんです」
とのこと。
もっとも、光本さんのように長年瓦を葺いていると、自然と手のあぶらがなくなってしまうそうだ。
ダーウィンもびっくりの進化論である。





瓦葺きの作業は屋根の上でする。
が、葺き上がった瓦は、通常、下から見上げることしかない。
屋根の上から見下ろして瓦が美しく揃っていても、
下から見たときに美しくなくては失格となる。
瓦屋さんは地面の上に片方の目を残しておかなければならないのだ。





施主さんが留守の間に瓦屋根の葺き替え工事をした時のこと。
夜になって家に帰った施主さんから怒りの電話がかかってきた。
「どうして2階の窓が全部はずれてるんですか?」
2階になんて上がっていない光本さん、「????」
とりあえず、現場に駆けつけたところ、瓦をはずして屋根が軽くなったために
窓枠が浮き上がり、はまっていた窓枠が落下してしまったものだと判明。
仕方なく夜中に割れた窓ガラスを掃除する破目になってしまったとか。





台風で瓦が吹飛ぶのは、瓦の葺き替え時期がきたからだという考え方があるそうだ。
地震のとき、瓦は振り落とされて落下することにより、家本体の倒壊を防ぐ。
平時には過酷な気象の変化から家を守り、地震のときには自ら落下し、
葺き替え時期すら教えてくれる。
そういう話を聞いていると、瓦が意思をもった、単なる建材ではなく思えてくるから
不思議だ。





瓦の葺き替えをしていると、思わぬ出会いがあったりする。
昔の職人さんが絵や歌を瓦に落書きしたものをみつけることがあるという。
光本さんはそんな瓦に出会うと、捨てれずに家に持ち帰ってしまう。
結婚したとき部屋の中にその瓦を置いていたら、
奥さんに「なんやこれ」と言われたそうだ。
そういえば、解体屋さんが、古い民家を解体すると、
長押の中から昔の人のへそくりがでてくることがあると言っていたのを思い出した。
古い家にはいたるところに名もない人たちの歴史が刻まれている。

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