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 『家づくりの会 連載コラム』


 055  気配を感じる

本間至/ブライシュティフト

私が生まれたのが、昭和31年。日本の戦後も終わり、まさにこれから高度成長の時代に入る時期だった。
そのような中、私の昭和30年代の住環境に対する記憶、それは気配であったような気がする。

外で遊んでいる時でも、周りの家の内部の気配が感じられた。
それは、食事を作る臭いであったり、ラジオの音であったり、そして垣根越しに見える庭先の犬であったり。
見る、聞く、臭う。
そのような人間の五感の一部が、日常の生活の中で自然と心地よい刺激を受ける、そんな住環境であった。
また、一つ一つの住宅も、個人のプライバシーを尊重する欧米のモダンリビング型の住宅は少なく、
良きにつけ悪しきにつけ、家族の生活は今よりは遥かに開放的だったように記憶している。

この半世紀で、社会状況は信じられない早さで進歩した。
それは、私達の住環境をも大きく変化させている。
住宅一つを取り技術的な側面を考えても、耐震性の向上、気密断熱性能の確保、冷暖房設備の充実、
どれをとっても確かに、住生活は物理的な快適性を満足させている。
しかしまたある側面では、住宅個々の問題としてではなく、地球環境やエネルギーの問題や、
犯罪の多様化による防犯性能(この原稿を書いている今も、外では警察の広報車が空き巣の注意を訴えている)
の問題等、負の側面も住宅づくりに、大きな影響を与えている。

このような様々な技術の進歩そして社会状況の変化が、住宅のあり方を変えていく中、
人としてのアナログ的な感覚が、もしかしたら置き去りにされているかもしれない。

人は、その昔から社会の中で生きていく動物。
それは、とりもなおさず、自分以外の他の人を感じつつ、そして意識して生活することを意味する。
このアナログ的な感覚が人間社会の原点にあるならば、人の社会生活の中心となる家庭生活にこそ、
家族お互いの気配が感じ取れる場が、意識する、しないに拘らず、大切な意味を持ってくるのではないだろうか。

私が住宅を設計する際、この気配をどのように作り出していくか、
ここに隠れた主題があるような気がしてならない。
当然一人一人の人間である以上、プライバシーの確保も大切である。
その点も満足させた上で更に家族同士の気配を伝えていく家、
そんな家が、精神的な気持良さ、そして居心地の良さにつながっていく。

住宅の設計とは結果、建築として形にはするが、実は家族の、
強いて言えば近隣同士の人間関係を調整する仕事。
どんなに設備機器のクオリティーが高くても、素材が立派でも、そしてデザインが素敵であっても、
家族同士の気配がスムーズに流れていかなければ、それは単なる造形物でしかない。
そんな思いで日々、住宅の設計をしている。


本間至/ブライシュティフト
日々の生活を拠り所とした、きめの細かい設計を信条とし、
その中から具現化された空間は、あくまでも美しさを追求している。


 
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