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 『家づくりの会 連載コラム』


 030 つくり手の体験談  その2
…モノをつくるということ、モノと付き合うということ…

松本直子/松本直子建築設計事務所

ところがである。木挽き職人の林以一氏に何とか願い出て木取りをみてもらったところ、
私の想像とはまったく違う木取りをされた。
恐る恐る実はこんな木取りを考えていたのですと話すと、木にもそれぞれ切られ方があるという。
長年、木挽きをしていると、木の表情で、その木がどう切られたいのかが自然に読み取れるのだと言う。
クリ材はあばれやすく無理をすると結局使いものにならない材になってしまう恐れもある。
百年以上の年月を経て成長してきた生き物に、一方的に人間の都合を押し付けてもうまくいくわけもない。
受け容れるということの大切さ。自然の素材と付き合うにはそんな心構えも必要なのだと実感した。

実は初めて製材の体験をしたのは別の丸太だった。
クリのほかにもう一本、チャレンジのつもりでネズコという丸太を買っていた。
針葉樹で木目が美しく、少しグレーがかった色味の渋い材木だ。
幅広の板がとれそうだということと、さらに片面は節がなく、無節の板がとれるのではないかとの予想だった。
製材の段になり、いよいよ木取りとなったところで、材木に詳しい人たちの目が真剣になった。

本来なら材木の持ち主である私がアドバイスを受けながらも、主導して木取りを決めるところなのに、
この時ばかりはこの丸太はこう製材しなければと始まった。
別段、使う目的を決めていたわけでもないので、だまってお任せしていると、
二つ割になった丸太からなんとも美しい木目が現れた。
一緒に製材をしていた仲間からも自然に拍手が湧いたほどだ。
あとで聞いた話では、あれだけの板がとれるネズコは珍しく、絶対無駄にしてはならないという
皆の気持ちから出た緊張感だったらしい。
製材したあと、こういう美しい材木は使うときに少しずつ製材して無駄のないようチビチビ使うといいよと言われた。
真剣に材木と向き合っている人たちとの貴重な体験であった。

気がつくとここ何年か木にこだわっている。会津にも随分通った。
別に銘木商になるつもりもないし、木に偏った家づくりを目的としているわけでもない。
ただ、百年を越える歳月を経た広葉樹には、人工的な技術では到底及ぶことのない
自然の材の自由闊達な力強さを感じる。触感もまるで違う。
強くて優しい、温かくて冷たいのだ。
材との出会いも一期一会。
材の出どころ、その材に関わってきた人たちのことを考えれば決して無駄にはできない。
それだけのモノを持ち込むには、それだけの懐のある空間も必要だ。
何より長い年月を経て使いこんだモノの温もりには、家族の記憶が宿っていることだろう。

材木屋さんとの時間は家づくりのほんの1シーンでしかないが、私はいまこんな人たちに恵まれて
家づくりを楽しんでいる。
そして日本の日常の中にまた精神的な豊かさを取り戻したい、これが私の願いである。


 
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