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『家づくりの会 連載コラム』
030 つくり手の体験談 その1
…モノをつくるということ、モノと付き合うということ…
松本直子/松本直子建築設計事務所
初めて建築というものに感動したのは、大学を卒業後、箱根プリンスホテルを見に行った時のことだった。
子供の頃、箱根芦ノ湖の遊覧船に乗るのが毎年夏休みのおきまりコースで、
その遊覧船から樹木の間に垣間見える建物に、そういえばいつもうっとりしていた記憶がある。
低く抑えられた玄関、華やかなロビー、円形の客室棟を主体とした自然との調和と対比、
素材の使い方もさることながら、照明器具、引手、手摺、階段、雨樋など細部にいたるまで、
あらゆる部分に美しいデザインが施されて、空間が密度濃く完成されている。
それなのにデザインのわざとらしさを感じることなく、箱根でのゆったりとした静かな時間がそこにある。
あれから何度かこの建物を訪れているが、いつ見ても飽くことがない。
村野藤吾、建築家、87歳の作品という事実にも驚愕した。
その後建築家は93歳まで設計活動を続け数々の名作を残した。
私にとって建築という奥深い世界にのめりこみはじめた、きっかけの一つだったと思う。
家もモノの一つと考えるなら、改めてモノと付き合うということはどういう意味があるのだろう。
古いものを手間ひまかけて修理するより、買った方が早くて安い時代である。
確かに便利ではあるが、同時にモノを大切に使うという意識が希薄化し、
新製品のCMに消費欲をかきたてられ、情報が右往左往する。
どうでもよいものが身の回りにあふれかえる。
勿論住まいはこれではいけない。
長年家族が楽しく住みこなすことができ、家族に馴染む家であってほしい。
自然に愛着がわく住まいであってほしい。
日々の生活の豊かさは人生を確実に豊かにする。素晴らしいものとの出会いはまた人生に不可欠である。
モノを介して育まれる家族の関係、また、人と人との関係も無限の広がりを持っている。
モノをつくる、モノと付き合うことの素晴らしさを、私は93 歳まで楽しみたいと夢描いている。
話は変わるが、会津での材木屋さんとの出会いは私にとって貴重な経験であった。
近年、非常に手に入りにくくなってしまったみずめ桜の板を探して、
豪雪の中、会津まで出かけたのがきっかけである。
木について勉強してみないかと誘われ、なんとなく通い始めた。
しかしここで、モノをつくるということを真剣に考えるきっかけを得る。
「モノを買うことは自分を買うこと」とプレッシャーをかけられ、真剣な面持ちの中、
製材体験に使う丸太を買うことになる。
ナラは無難だが優等生。
杉やアカマツでは径が細く幅広の板がとれない。
キハダやイチイはあまり馴染みがない。
目に入ったクリの丸太は、小口が一方はハート型をし、一方は鬼の角のような形をしていた。
少々ねじれもあるが、長さがあり径も太い。
値段もなんとか予算内。たくさんの丸太の前で直感的にこれだと決めた丸太がこのクリの木だった。
直径が80センチある部分もあり、テーブルなどの幅広の板が何枚かとれるのではないかと期待が膨らむ。
(つづく)
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