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『家づくりの会 連載コラム』
028 「住宅」に音楽を奏でさせる為に その1
…加藤登紀子と王貞治の話を交えて…
野口泰司/野口泰司建築工房
加藤登紀子という歌手がいます。
歌うことを通して聞く者に何を伝えるか、自らの歌う意味について、自問自答し続けてきたという彼女が、
力むことな く淡々とうたう歌に、自分はとても魅力を感じます。
大分前のことになりますが、某新聞の一頁ほどの彼女に対してのインタビ ューの中で、
彼女が自らの歌について語っていた言葉が強く記憶に残っています。
「踏みしめる大地から湧き上がる何かが、身体の中を静かに駆け抜け増幅され、自らの声帯を震わせ、
唇から発せられる…そんな歌い方を心掛けている」。
新聞の切抜きを取っておこうと思いながら果たしていないので、彼女の言葉そのままをお伝えできないのが
残念ですが、こんな内容であったかと思います。
「住宅」に、大地や、一億五千万キロの彼方から届く陽光、陽光が生み出す季節の風や樹木、
そうした「自然」からおのずと導かれ増幅された音楽(形や空間)を奏でさせることが出来ないものか…
という思いを、ずっと私自身、持ち続けてきたように思います。
しかしながら、私達は大地や陽光、風や樹木についてどれだけのことを知り、
それらを「住宅」に呼応させる術(すべ)をどれだけ持ち合わせているのか。
それらの「知識」や「術」を豊かにしていくことこそが、「住宅」に音楽を奏でさせる近道であると、
自らに言い聞かせ、私なりに励んできたつもりですが、「建築家、四十、五十は洟垂れ小僧」の名言通り、
ましてや凡人である私にとっては、気の遠くなるほど果てしない道のりです。
「知識」や「術」と抽象的に言っても判りにくいので、たまたま私の知っている範囲ですが、
少し具体的な例を挙げてみようと思います。
私の住む横浜方面の夏の風は、昼間少し東に振れた南の方向から吹くことが多く、
夜になるとその方向が逆転します。
このように季節によってほぼ一 定方向から吹く風を、その土地における「卓越風」と言います。
温まりやす く冷めやすい大地と、温まりにくく冷めにくい海がつくり出す、
その上部の空気温度の差から生じるこの現象は、小学校や中学校の「理科」の授業で習って、
覚えておられる方も多いのではないかと思います。
住宅の前面に樹木の生い茂る庭や林があり、背面に日当りの良いアスファルトコンクリートの
広い広場等があると、同じ理由で夏期日中、前庭から背面に抜ける涼しい風が住宅の中を通り抜けます。
こうした小さな拡がりの中でおこる気象を「微気候」と呼びます。
つづく
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