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 『家づくりの会 連載コラム』


 024 自分探しの家づくり その1

長谷部みどり/長谷部建築設計事務所

私が育った家は、建築後百年を超えていた大きな農家です。
父は、そこの末っ子ですから跡取りではなかったのですが、
戦後の事情で、私たち家族は10年間、私が7歳の時まで本家の大家族と一緒に過ごしたのです。

広い土間が太い柱ごとに直角に段状に狭くなって裏庭に抜けて行く。
長い間に踏み固められた土はうろこ状に反射していて、そこは、時に仕事場になり、時に子供の遊び場となった。

がらんとした大広間が、ある日、人寄せで満杯になる活気と喧騒、それを見守ってきた黒光りした大黒柱。
のしかかりそうな幅広の梁鴨居、重厚に動く板戸に囲まれた広間の寒さと家族の団欒。
思い出せばきりがないほどさまざまな風景が強烈に焼き付いています。
その中でも忘れられない風景があります。
暗い天井に覆われた中、土間に立つ子供の目線の高さで、ほとんど水平に見えるうっすらと光る畳の面の先に、
子供がやたらに入ってはいけない中庭の緑が陽の光を浴びて光っていた風景は、
「あの時」私だけが見ていた宝物です。
美しいことや物とはどういうものか誰も教えてくれてはいなかったあの頃、
私は何ものにも左右されずに自分自身で感動していました。
そして、それは色々な所にありました。  

家の裏側に位置する寝間は極端に暗い。けれども陽の光が裏山の斜面に広がるフキの群生する面に反射し、
緑色の光となって部屋をほの明るくしていました。
また、炊事場の無双窓からは縦縞の光が差込んで、かまどの煙が揺らめいているのを見て
ドキッとするほど印象的でした。

なんだか江戸時代の生活のようですが、五十年程前の事です。
その昔、旧水戸街道沿いに士族が土着して作った大きな農家が10軒ある集落で、
周囲はその人たちの畑と山ばかり、野山で遊び回っていた頃と今もまだ変わっていません。
上野から常磐線で五十分、牛久駅から車でしばらく入ったところです。
そこから離れた位置に新水戸街道(16号国道)が作られたので幸い急激な発展から免れ、
そのまま昔の風景を残しています。
7歳になって隣町に引っ越してからも、そこは私のユートピアで、小学校の高学年になるまで何かと言っては
泊まりに行き、ずっとそこで過ごしたような錯覚を持っている程なのです。
6歳の手習いと言いますが、幼い時に自分の感覚と感性でつかんだものが
体に沁み込んで引き付けられていたのでしょう。
私はその頃、心を揺さぶられたものが設計活動の原点になっていると思っています。

このような事は、設計者に限らず家をつくろうとする人にも言える事です。
家づくりは希望に燃えるものです。
希望と言えば未来、未来に向けて私たちの生活は…と、心はやるものですが、
未来をイメージするには自分の心の履歴が重要な意味を持ちます。
つまり原点です。
つづく


 
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