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 『家づくりの会 連載コラム』


 013 森の家 その2

川鍋智子/川鍋智子建築設計室

12歳のとき、この町を引っ越すことになった。
父の仕事で、アメリカに家族も一緒に行く事になったからだ。
引っ越す少し前だったと思う。隣のえこちゃんと松林に行くと、気配がいつもと違っていた。
暗く、うっそうとしている林が、明るく、こざっぱりとしていて、林が広く感じられる。
松と松が連続して生えている隙間から、田んぼを挟んだ向こう側が見えた。

下草がきれいに刈り取られているのだ。
ぐるぐると林の中を歩いて、すみれの花を見たり、
犬のお墓の位置が少し窪んでいるのを確かめた。
枯れた松葉がたくさん木の下に積もっているのが気になった。
これを拾って、家をつくろう、と突然閃いた。
部屋のように区切って、ベットをつくって寝っ転がった。
松葉の匂いがする。ちょっとちくちくするけれど、
ふかふかして気持ち良い。
子供ながらに幸せな達成感があった。
上を見上げると、松葉と松葉の隙間から、光りが線となって降りそそぐ。
この瞬間が私の家に対する原体験であったのだと今になって思う。


30歳のとき、パリ市内にあるコルビジェの設計したラ・ロッシュ邸に行った。

道路から、ピロテイーをくぐって吹抜けのある天井の高い1階のホールに入る。
2階に行くために、階段をのぼる。この階段は閉鎖的な壁に囲まれているが、登ってしまうと、
パッと天井の高い開放的な吹抜け部分に出て、1階ホールを見下ろすことができる。
2階の画廊に入ると、いきなり部屋の幅いっぱいに短いスロープがあり、不思議な感覚がする。

ここを下ると画廊の平らな床になる。
画廊には3階に登るスロープがついている。
そのスロープの上に高窓が横長についていて、光りが上から降り注ぐ。
スロープを登りながら、今いた画廊を上から見おろすことができる。
上がりきると、吹き抜けのある階段室になり、
下をのぞくことができるので、また2階に降りたくなる。
2階に降りると、また画廊のスロープを登りたくなり、ぐるぐるとまわってしまう。

もし、ここが私の家ならば、どこか好きな場所にその日の気分で椅子をおこうと思う。
ある日は階段室に、ある日は画廊の隅っこに、そして、光りのうつろいを感じながら、本をのんびり読みたい。
気がむいたら、家の中をぐるぐると歩きまわりたい。
新しい発見がどこかにありそうだ。
この家にいると、開放感や遊び心が生まれる。
この時、こどもの頃の、あの松林の記憶がよみがえったように思えた。



 
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